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釧路家庭裁判所 昭和34年(家)518号 審判 1959年11月13日

申立人 大原忠一(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

申立人は申立人の名忠一を註一と変更することを許可するとの審判を求め、その理由とするところは申立人の名は戸籍上は忠一であるが、幼少の頃から註一と呼ばれ、小学校も、その名で通したが一八歳の折軍隊を志願し、お前の本当の名は忠一だ、自分の名を間違える奴があるかと叱られ初めて知つたのである。しかしその後も引続き註一を使用しているため戸籍上の名と相達することは営業上にも差支えその他一般取引にも不便を生じているから、註一と変更することの許可を願いたく申立に及んだというのである。

申立人の戸籍上の名が忠一となつていることは記録編綴の申立人の戸籍謄本により明かである。しかるに小学校時代から永年戸籍上の名を使用せず、営業上を初め官公署に対する届出、文書の往復、郵便等すべて註一たる名を用いているため、選挙人名簿も交通違反の前科調書も、註一になっていることは調査官の調査報告書により、認めることができる。そのため不動産を譲渡するため必要な印鑑証明も戸籍上の名と異なるが故に註一では証明を受けられず、株主名義も変更手続をする必要があり、不便を生じていることは容易に推測するに難くない。しかし申立人から提出の本件審判申立書により明かのように既に一八歳の時軍隊を志願した際戸籍上の名が註一ではなくて忠一であることを知つたのである。それでも尚引続き註一なる名を使用しなければならない特段の事情は認められない。今日の不便に遭遇するに至つたとしてもそれは戸籍上の名を無視し通名を使用した結果であり当時より予見されるところである。永年戸籍上の名を用いず強いて別名を使用したため今になって戸籍上の名を用いることは却つて混乱を招くということだけでは改名するについては首肯するに足る根拠とすることはできない。若し永年使用してきたという既成事実さえあればこれを認容しなければならないとすれば常に斯る場合には改名を許すことになり、その不当であることは論をまたないところである。本件申立は正当な理申がないから、これを却下するものと認め、主文のとおり審判する。

(家事審判官 原和雄)

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